■タイトル通り、卵を1ダース見つけなければいけない祖父の話。
それのどこが大変なのか。それは、舞台がソ連のレニングラードだから。ドイツ軍に包囲され長期の兵糧責めにあい、大量市民餓死者を出したレニングラードだからです。
読んだらつらそうだとは思いつつ、かねて読みたかった本。戦争ものだけどフィクション色が強く(冒険小説の舞台が独ソ戦って感じ)、物語としてドラマチックで痛快で非常に面白い!ので映画化したらいいと思う。とか思って読んでたら、訳者さんのあとがき見たら『トロイ』『ウルヴァリン』とかの脚色とかされてる作者さんなんだそうで!。え、じゃほんとに映像化できそう(もうなってたらすみません)。飢餓を実写でやるのは難しいのでアニメとか。
お話は、現在アメリカに住んでいるシナリオライターの青年(作者本人。と見せかけてここからもうフィクションなんだそう)が、祖父に戦争の話をしてもらう形で進みます。
少年だった祖父の、1942年。その鮮烈な一週間の物語です。
~あらすじ~
包囲下のレニングラード。住民は皆飢えていた。17歳のユダヤの少年レフ(後の祖父)はひょんなことからドイツ兵の死体をみつけ、つい所持品の酒を飲んでしまった罪で連行。死刑を待つ彼は、脱走兵のコーリャと牢で出会う。ふたりは死刑の代わりに卵を1ダースもってこいという命令を受ける。大佐の娘の結婚式にケーキを焼くためだ。
そんなことが可能なのか。とにかく、ふたりは卵を求め探し回ることに。
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以下ネタばれあり
■ロシア人サイドからのお話で、ドイツが侵略者です。ロシアは国土の半分ほどを占領され、大きな都市レニングラードも包囲され数ヶ月(お話はまだ包囲からそこまでたっていない設定なんですね。3年近く包囲は続いた)。配給はどんどん減って、市民は飢えてなんでも食べて、それでも食べるものがない。
卵なんてレニングラードにあるはずがないと思いつつ、闇市に行ったり鶏を飼ってるらしい噂の人を訪ねたり、手段を尽くします。
■レフとコーリャ
旅の相棒で、小説らしく対照的なキャラクター。金髪碧眼でモテ男で大胆不敵なコーリャと、臆病で内省的なレフ。チェスが得意。
ヒーロー気質なコーリャに嫉妬したりあきれたりときめいたり尊敬したりケンカしつつ、祖父は感化されていきます。
レフは思春期なのでとにかく惚れっぽく年中エロ妄想をしているv。こんな時なのに、なのかこんな時だからか、なのか。
飢えてるわりにふたりとも元気でおしゃべり。会話が軽妙で下ネタばかりくっちゃべってます。
■大佐と娘
市民が餓死していく中、堂々とした体躯の大佐と庭でスケートを楽しむ体力のある娘。
娘は戦時下だろうとちゃんとした結婚式を望み、ウェディングケーキがないと話にならんと思っている。市民みんなが皮と骨だけになってる中。
この娘に対して、読者は怒りを感じて読むわけだけど、当のふたりはかわいい娘に夢中。彼女俺のこと見てたぜ、とか。えええ!。そんななの……?。男子がわからない……!。
この娘の言うごちそうで、主人公の住むアパートの住民みんながどれだけ生き延びられるだろう、と考える一方ふとももふとももーーvってハァハァしてるのがすごい。
■都市伝説で
よくこの包囲下のレニングラードでは誘拐・人食いが横行したと言われますが、主人公たちも卵あるぜ、の甘言に人食い夫婦の巣へ招待されてしまったり。
街道で見つけた家族らしき遺体たちからは持ち物が奪い去られ、また臀部の肉が切り取られていた、などの描写が出てくるのが痛い怖い。
飢えに関する描写は物語のメインではないんだけどやはり多く、読んでいて本当に今の生活に感謝しなければなあと思う。
主人公が、何の気なしに飲み込んだ昔の食事の回想するのがせつないんだよね。あのころはパンくずをそのままにして、皿に残ったあぶらのかたまったのなんて見向きもしなかったのに、あれはなんてごちそうだったんだ、と。
■チャップリンの映画に革靴を食べるシーンが出てきますが(映像はみたことあるけどあれはどういう流れのシーンなんだろう?)そんなのは当然として、出てきた食べ物で衝撃だったのは
・図書館キャンディ
本をはがして、表紙をくっつけるのに使うのりを煮詰めて作った(たぶん形状はきりたんぽみたいな感じか?)キャンディ。味はともかくタンパク質ではある。らしい。本は食用に解体された。
高値でコーリャが購入。まずいらしい。
・瓶に詰めた泥
ドイツに爆撃されたあとの食料庫の泥。食料があったからしみこんで味や栄養がある。と期待されるらしい。祖父は食べていないので謎。
・ウォッカ?
ハンカチで漉せば飲めるという謎のウォッカ?。ハンカチには謎の残留物が残る。
メチルアルコールなのかなんなのか。コーリャはひとくち飲んだけど目は大丈夫だった。
■人食い夫婦から逃げ、やっと見つけた鶏は雄鳥だったのでスープにしていただいた後、やっぱりレニングラードに卵はないな……と包囲を抜け外に出ることに。
この、鶏を守っていたおじいさんと孫も切ないんだよね。みんなが狙うからいつも銃を持って鶏を守って、卵で生き延びようとするんだけど、ロシアの寒さに鶏もおじいさんも死んでしまって、瀕死の孫と瀕死の雄鳥だけになってしまって。
とにかく、寒さの描写がすごい。
最初に見つけたドイツ兵も凍死ですからね。
あのナポレオンも破れた寒さ。ロシアの最大の武器。でも国民にも牙を向く。
南の国みたいに、外で寝ても死ななくて、実とかそこらに食べられるものがある、っていうのの逆。やっぱりあたたかいところに住みたい……。
■私はこのレニングラード包囲戦が気になっていたんですが、そのひとつに、包囲ってどんな感じ?っていうのがあり、『進撃の巨人』みたいな丸い街を巨人が取り囲んでいる、みたいなのがイメージしやすいんだけど、実際ぐるっと囲むわけないし(主要な道・橋などを押さえてる感じなのかな)とか、けっこう出入りできたのでは?とか思ってたんですが。
やっぱり、けっこう簡単に街を出てましたねふたり。
まあ命の保証はまったくないので危険きわまりないんだろうけど。
……包囲戦のイメージがわかんない…………。
■街出たら、これ以上ひどい描写はないだろう、寒いけど。と読み進んでいたら、ここで宿敵が現れます。
ひどさもここが群を抜いてきついです。
レニングラードも空襲があり、飢えがあり、決して平和なんかじゃないんだけど、市を出たらもうドイツの支配下。立ち尽くしたまま凍死している兵士や、爆弾を背負わされた犬。
そして、アインザッツグルッペンの影。
悪名高いアインザッツグルッペン(特別行動部隊)は、戦争の前線の後ろからやってきて、ターゲットの殲滅(せんめつ)をはかる軍隊です。
標的はユダヤ人、ロマ族、共産主義者など。
その少佐・アーベントロート。顔のイメージだとハリーポッターシリーズののスリザリンの人みたいな感じか……(ごめん)。(と思ってたら実物がマッチョでちょっと違った)
彼がチェスを好む……という話に、え、主人公の趣味と同じ…まさかまさか……と思ってたら……終盤まさかのチェス勝負!!。すごい話だ。
■パルチザン
祖父はまた初登場のパルチザンのスナイパー女子に恋をします。しかも毎回ほぼ一目惚れっていう。
おま、またか!。
スナイパーは女子が多いのかなあ。
ゲームの『メタルギア・ソリッド』に出てくるスナイパー・ウルフっていうキャラクターが好きだった……彼女はクルド人、って言ってたような。
スナイパーというとこのウルフか、映画『プライベート・ライアン』に出てきたクリスチャンのひとだな……。思い出すと泣ける……。
スナイパーのヴィカがすごく魅力的で!いいヒロイン!。ふつうの大学生だったなんて信じられない…………(自称なのでどこまで本当かわからないけど。大学中退で秘密警察入ってパルチザン?とコーリャは睨んでましたが)
ドイツ軍に捕まった捕虜たちが新聞を読まされるシーンで、「読まないように」と主人公に静かに忠告をするシーンがかっこよかった。
(捕虜たちは、字が読めたら翻訳の仕事、読めないときつい肉体労働、に仕分けられると説明されて、読めるひとは揚々と読み上げて見せる。けれど実際には字の読める知識人層を選別して殺されてしまう)。
■パルチザンは正規軍とは違う形でドイツ軍、特に(ヴィカのいるチームは)アインザッツグルッペンに対抗してます。彼らの狙いはアーベントロート。
まじやっつけてくれアーベントロート!!と思うくらい彼の所業がすさまじい……。
■卵を探してただけなのにパルチザンに加わって軍の襲撃を受けて捕虜になって、そしてアーベントロートとチェス勝負をコーリャがとりつけて……とすごいめまぐるしい一週間。
終盤、ついに登場したアーベントロート本人が………………なにこれ結局戦争さえなければっていう……。結婚指輪とかこんないいチェスができたら正気を保っていられそうだ発言とか。
アインザッツグルッペンも好きで入ったひとなんかほとんどいないっていうし(そりゃそうだ。いや、アーベントロートはわかんないけど)怒りをどこへやればいいのか……。彼のしてきたことは本当に悪魔の行いと思うけど、戦時下でなければそんなことしたはずもないので、このへんもやもやする。
アーベントロートをこういう人物像にしたのは反戦がテーマだからかなあ。
作品はソ連の悪いところもたくさんでてくるから(主人公の父は自分の国に殺されてる)、ドイツ(悪)で主人公のいるソ連(正義)という書き方でもないんだよね。作者アメリカ人だし。
結局、勝負に卵を賭けてのチェスは決着の前に奇襲し戦闘となり、レフは初めて人を殺し、指を失って、コーリャとヴィカを守ることができます。
卵を持ってドイツ軍基地からとんずらし、任務を果たせて、よかったー!となり。
■ゴールの、レニングラードへ入る間際も間際、味方の軍にコーリャが撃たれ、死んでしまうという怒濤の展開。
あそこでもここでも、もっとピンチを切り抜けてきたコーリャが、味方からの威嚇射撃?に当たって死ぬとか、この理不尽。
なんでーなんでー!!。
■コーリャを失い、ひとり失意のまま大佐に卵を届けにいくと、空輸で食料を手に入れた大佐の館にはもう何ダースも卵があって、彼らの命を賭けた卵はそのうちのひとつになった。やりきれない…………。
コーリャは小説家志望で、手帳を持っているんだけど、それについて描写ないのが気になる……。レフの手元には戻らなかったのか…。
■救いは、逃亡のあと別れ、また戦いにひとり向かったパルチザンのヴィカが、終戦後会いに来てくれること。
卵を持ってやってきたヴィカに、オムレツをふたりで作ろうと誘うと、
「あたし、料理はしないの」
でエンド。
冒頭にだけでてくる祖母は料理をいっさいしない人。
そっかー、よかったー、って終わる。
祖父は最初に、親友と出会って、妻となる人に出会って、ドイツ兵をふたり殺した、と語っていて、そして生還しているのでその通りの話なんだけど、
親友は脱走兵で一緒に卵探しなんて変な任務のためかけずりまわって、妻はパルチザンの見事なスナイパーで、ドイツ兵はアインザッツグルッペンの少佐だったんだ、というすごい話なんだよね。
ヴィカは本当に危ない所にいたと思うけど、生きてて本当によかった。
その後保険のセールスやったり大学の講師やったり、ヴィカがタフすぎてかっこいい。かなり姐さん女房かな?。
■この作品の参考図書にもなっている本が……こちらも読みたいんだけど躊躇してた本なんだけど、まあやっぱりこれを参考にするよな、ってレニングラード包囲戦の代表作品なので。近くチャレンジしようと思います。
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2014年09月27日
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