2014年04月11日

小説感想 『ダイナー』 平山夢明先生

■超面白かった!!。
実話聞き取り系・怪談の短編が多い作者さんが、エンターテイメントを意識して作ったという長編小説で、彼のテイストとエンタメがすごくマッチしてる気がします。
 いままでの平山夢明さんのフィクション系でダントツ一番好き!!。これ映像化したらいいのに!。


■映像化するなら・・・と考えると、

わたし(オオバカナコ)=深津絵里・西田尚美
ボンベロ=渡辺謙
スキン=渡部篤郎
キッド=神木竜之介
炎眉(えんび)=柴咲コウ・中谷美紀・杏
九十九九(つくもきゅー)=斉藤工・チームNACSのシリアス顔の人(名前失念)

 とかとかとか!。
なんかヒットしそうじゃない?。

 登場人物名が中2っぽいのは仕様です。じゃなく、おそらくみんなカナコ以外偽名やコードネームなんですね。料理人も客も『殺し屋』の店に放り込まれた、哀れな、でもたくましい女性の物語です。


■あらすじ
 軽い気持ちで闇サイトの仕事を引き受けたカナコは、失敗し依頼者とともにつかまり、拷問の末殺されかかる。
 山中に埋められる寸前、自分を生かすメリットとして叫んだ「料理ができます!」に興味を引かれた男がカナコを購入。ちょうどウェイトレスの足りないダイナー『キャンティーン』へ連れていくことに。
 助かったかと思ったのもつかの間、料理人のボンベロを始めとして、そこはみんなが異常な殺人者。殺し屋たちのダイナーだった・・・。





■わたし(オオバカナコ)
 彼女の目線でお話は進みます。
まわりが変な人たち、一般人のわたし、どうしよー的なメイちゃんやら花ざかりやら花男的な設定に一見見えつつ、非常にハードです。乙女ゲームになり得ません。誰も助けてくれず、誰も大事に思ってくれず、誰もがいかれている・・・・序盤から中盤まではかわいそうすぎて読んでいてつらい・・・。
 彼女から得た教訓=闇サイトで依頼される仕事は危険。
 軽い気持ちでやっちゃいけません。
海外旅行に行く軍資金稼ぎで犯罪の運転手を引き受けてしまったのが地獄の始まりでした。

 ボンベロとのゆっくりとした親交の深まり、優しげにいたわってくれるスキンとのつかの間の幸せと救いが、読んでいてこちらもほっこり。

 少しずつ、自分の命や人生を考え、変わっていくカナコはかっこよかった。
極限状態でも人間性を失わない強さが彼女にはある。
 あと、機転がきくのが綱渡りの中で生き残った秘訣だよねー。はさみを見かけたらポケットへ。これ大事。彼女のポケットはけっこういろんなものが詰め込まれていたような。毒のカプセル・ナイフ・みみたぶの切れ端とピアスとかも入れてた。

 ボンベロに殺される覚悟を決めたシーン、彼との最期の別れにお礼を言ったシーン、脱出前の会話、そしてエンディング・・・・・泣ける・・・。

 この状況下でありながらツッコミ体質なあたりはちょっと笑えます。

 個人的には、料理というクリエイティブで工夫のいることが得意なカナコが、生きていることをどうでもいいというのは少し解せない気も。どうでもいー死にたいーって思って料理する心理ってわかんない。灰色の日常の中で料理だけが趣味といえるものだったのかな。


■ボンベロ
 寡黙な料理人で、元殺し屋。
替えのきくウェイトレスのカナコとの交流の中で、少しずつ表情や人間味を見せてくるあたりから印象がかわってきます。

 彼から得た知識は、グリルとグリドルの違い。へーそうなんだ(火のあたる向きが上下逆)。

 ダークヒーローですね・・・。
大きな秘密を抱えている、多くを語らない、でもすこし愛嬌のある、愛すべきヒーローです。かっこよすぎだボンベロ・・・!!。『レオン』のジャン・レノとかイメージかな。

 カナコがボンベロのバーガーをおいしい!て叫んだときの「当たり前すぎて誉め言葉にもならんな」とか言いつつちょい喜びとか、殺し屋のツンデレにどうしたらいいやら!。

 さりげなくカナコを手助けするシーンにときめきます。助けないところもときめいたりします。いや、ほんとにやばい時は助けてくれるよね・・・?。腕を鰹節にされそうになったときは助けてくれなかったですが(痛そう)。
 最後はたった一本の血清も、自分の腕をさしおいて彼女に使ってしまった。そして、組織と戦う道を選んでカナコを助けてくれた。

 生きてますように!。
いつかカナコのところに戻ってきて、一緒に店をやればいいよ・・・。


■スキン
 非情で理不尽な、いつ殺されるかわからない世界で、はじめて優しくしてくれたひと。
好きになってまうやろー!!です。
 紳士的で穏やかな裏のその破滅的な二面性を知ってもなお、スキンよかったよ・・・。爆弾だらけのコートは危ないかと思います。メタルギアのスネークみたいなひとだな。

 スフレ大好きっ子。その喜びの描写にこちらもスフレ食べたくなるv。

 カナコをもし何事もなく買って連れ出していたら、どうなったんだろう。キッドはスキンは彼女を殺すと本気で思っていたみたいだけど、意外とスフレの仕様さえ間違わなければ穏やかに幸せにやっていけるかも。

 スイッチの切り替わる表現とかが怖い。さっきまで穏やかに会話をしていたのに、目の前にいるカナコがわからなくなるとか。
この人のお母さんの影響がかなりありそうだけど、過干渉よくない。


■炎眉(えんび)
 でてくるキャラクタみんな名前すごいけど、彼女と無礼図(ブレイズ)がトップですね!。無礼図ってヤンキーセンスだわv。
 殺し屋というより暗殺者、とはボンベロ評で、着飾った美しい女だけれどピアスすら武器。
 ボンベロ熱烈ラブ。

 過去については明かされなかったけど、なんだかかわいそうな子でした・・・。友達にはなれないけどね!ボンベロと口きいただけでターゲットだし。

 離れるくらいなら殺して、ていう約束をしたがらないのは、ボンベロが炎眉を殺したくないからってどうして気づかないんだろう。恋愛感情はないみたいだけど(けっこう年の差あり?)彼女のこと、大事に思ってたみたいだったのにな。

 ボンベロの性格を承知しているから、命がけで手に入れた血清を彼が自分でなくカナコに使ってしまう未来もわかっていたんじゃないかと思います。泣ける・・・。死ぬことがわかってから、したのがボンベロに悟られないよう平気を装いコーヒーの注文って潔すぎる。

 ファキールの死も同じで、もうとっくに覚悟は完了しているのをうかがわせます。そんな心境に至れるのがすごい・・・。


■キッド
 自分がしたことを、されたことにして言うって、やな子だなもう!。
 子供のナリしてモンスターっていうのはほんと怖いテーマです。

 高橋留美子先生の『人魚の傷』ていう作品を思い出しました。これも怖かった・・・。
 ホームレスの男性を拾って優しい祖父のように見立て、場合によっては使い捨てにするキッドとかぶるなあ。

 虐待を受けていた過去の話はきつい。ベルトのバックルは人を殴るためのものじゃないよー!。

 ちゃんとした大人を見たことがない子が大人になるのを拒んで、子供の容姿に拘泥している感じにも見えて、キッド切ない・・・。でも三十路過ぎ。

 ボンベロの声色を使ってカナコを騙してダイナーにやってくるシーンは怖かった。
ボンベロが帰ってくるまでの必死の時間稼ぎはじりじりする・・・!。
私このダイナーにいたら一日持たない・・。


■九十九九(つくもきゅー)
 公務員のかたがここまでしてるなら、いくらでも税金払うよ・・・。
九かっこよかった・・・・!!。ただのチンピラかと思いきやすごい重要キャラだった。ただ、メンマ色の顔色ってなによ、白なの赤なの、と読みながら不思議だったんだけど、ナルトと間違えていた自分にショック。メンマってシナチクのことか?!。土気色って言いたかったのねカナコ・・・!。アル中だから?。
 ものすごい蛇足ですが、わたしはシナチクを「割り箸を煮たもの」と父に騙されて育ってきていたので、いまだに食べ物の気がしない。食べるけど。

 九の言動に、潜入捜査員の過酷さを見ました・・・・。おそろし!。
『インファナル・アフェア』の日本リメイク版やるんだよね!!西島英俊さんと香川さんで!!。これ韓国映画でいまのとこ一番好きです。←香港映画でした。すみません。

 戦闘シーンとかすごいかっこよかったけど、映像で考えると九はカナコとおそろいのウエイトレスの格好なのよね・・・。ボンベロの着替えは置いてなかったのか・・・。

 これ以上ないほどの非常事態でも、彼が直腸から出した武器を嫌がるボンベロとカナコがかわいかった。まあ・・・うん。


■菊千代
 改造ブルドッグ。容貌がどうしても『リトル・チャロ』のナイスなボクサー犬で再現されてしまう。

 怖いけど忠義に厚いいい奴。
主人同様この子もツンデレ。
ボンベロとともに生きてて欲しいと願うばかり・・・・!。カナコと彼のタッグで強敵に向かっていったシーンよかった!。


■オヅ
 せつないなー。
過去に捨てた娘を探し出したら、重度のジャンキーに身を落としているという。
 最後にボンベロの料理を一緒に食べて、それから苦しまないように殺した父親。
 背景はわかんないけど、この娘も根はいい子っぽくて。

 クスリだめ!絶対!!

 ジャンキーに途中下車はない、っていうボンベロの言葉が重いです。どちらに進むにしろ破滅しかないということなんですね。

 オヅのこと、その後ボンベロが手引きしたみたいだし、生き残っているといいな・・・組織も間をおかずほぼ壊滅だから、オヅどころじゃないよね。望んだ老後を迎えていてほしい。


■ミコト
 嫌な女だなもう!。ソーハとミコトは悪いとこしかないですね!。蛇毒の使い手。毒の管をのどの下に入れてる感じなのかな。
苦しそう。


■殺し屋たちがくつろげるダイナー・・・いやいや、くつろげませんけど?!って連日の騒ぎだったな・・・。穏やかな日とかあるのかしら。
 予約制にして、やばいのとやばいのが会わないようにするだけで違うかも。
 ドアはボンベロの承認がないと入れない特殊製。爆破物用の処理箱まである。
でもお風呂(湯船)はない。カナコかわいそう。この話の感じだと、カナコは基本すっぴんだよね。眉毛なかったらきつかろう。


■ちょいちょい出てくる殺し雑学がためになるやら怖いやら!。海に沈めるときは網間の広めの金網に入れるのが良い。これ幼稚園レベルの知識らしい。(潮の影響を受けにくい、魚が通って食べてくれるからだそうな)


■『東京伝説』シリーズと違って、きれいに物語として終わるので、悲しさや残酷さはあるけど、読後感がいいです。おもしろいです!。
posted by イナ at 01:39| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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