2018年03月30日

宝塚月組感想『グランドホテル』

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ザ・ミュージカル
『グランドホテル』
月組 東京宝塚劇場


前の前の作品を今更ですが感想。

■『グランドホテル』、本当は宝塚向きではない作品ですよね。
すごく面白いけど、宝塚の大人数でやるものではない気が。宙組の『不滅の棘』くらいの規模がいい。
組子たち、力持て余してるよー!

 そんな中、ものすごく目をひいたのが蓮つかさ!こと れんこん!
もともとシャープにかっこいい男役さんですが、『グランドホテル』の世界観にあってたというか。
かげがあり、耽美! 耽美属性持ってます!

 袖に椅子がずらーっと並んでいて、出番のない役者はそこに座って舞台を眺めているという面白い仕組みのこの作品。
座ってるれんこんをつい見てしまう(ライトは当たっていないから暗いけど一生懸命みる)。
皮肉っぽい顔してたり、無表情だったり、マネキンのように固まっていたり、どれもかっこいい。

 『グランドホテル』の新人公演がれんこんで、『三銃士』をるねちゃんだったらよかったのに………………
なんで逆だよ!!
れんこんは無骨なガストンよりおちぶれた男爵のが絶対似合うのに……
るねちゃんも持ち味が明るい気がするのになあ

 つい目で追ってしまったのはれんこん、紫門 ゆりやさんのゆったり美形ぶり(最近の宝塚で珍しいタイプ…)、電話交換手の娘役たちかな(制服かわいい~!足組んで座ってるの美しい)。
ホテルのひとびとのお仕事ぶりに食いつきます。


■舞台はやっぱり暗く退廃した雰囲気があり、世界がやばいことになる直前のぞわぞわとか、すごくよかったです。
宝塚なのであくまで美しく、あまり生々しいシーンはなかったですね。ユダヤとかヒトラーとかの要素なし。
外部でヤンさん達のやった『グランドホテル』は、市民が強奪しはじめてたもんね……

貧富の差や労働階級の者たちの鬱屈したエネルギーとか、わかりやすくて力強くて好き。
ホテルの従業員たちも客たちも、ほんとにこんなホテルがあってのぞいてるような気がするくらいでしたね。ホテルのロビーを定点録画したのを見てるみたいな。見たいところが多すぎて疲れる……

あー終わったー、よい作品だったー、って思ったところで主役ふたりが幸せに踊りだす感じは、宝塚大好きな私からしても蛇足ですけど。
『グランドホテル』のおしゃれさにそれはいらなかった……


■フェリックス・フォン・ガイゲルン男爵(珠城 りょうさん)
 たまきちは生命力があり、なんとかなりそう感が強いので、あまり窮地に見えないv
ていうかダメな奴に見えないv

 たまきちさんへの先入観というかやっぱりたまきちトップおめでとう!て感じに見てしまって男爵というかたまきち。
これはお客の私の問題ですけども。

 このあとの『三銃士』ダルタニアンのほうがよっぽど似合ってたし、明るいほうがいいんじゃないかな。
それこそ耽美属性0な人だと思う(トートにも萌えられる気がしていない……たまきちは『エリザベート』と親和性が低いと思う……)。

 トップ男役が金策に必死になってコソ泥、という斬新さ。
そんな奴なのにいい奴に見える。たまきちすごい。


■エリザヴェッタ・グルーシンスカヤ(愛希 れいかさん)
 声とか態度とか、貫禄ある老け役?がんばってたと思う。
バレリーナ体型で、チュチュとかかわいい。
たまきちと同じで、もっと明るいかわいい役で観たいけど。

 下品になってしまいそうな薄着でのベッドシーンがあるけど、どこか爽やかなのがちゃぴちゃんらしいです。つま先立ちでとてとてしてるの少女のようです。

 バウ主演ってすごいですね…………( ゚Д゚)
もうディナーショーやっちゃってるもんねえ
歌のひとじゃないし、エリザで退団は微妙……って思っちゃうけど、その後の人生的にはエリザベート演じたというのは大きいんだろうと思います。東宝エリザや東宝『1789』とか、小池作品に出そう。


■オットー・クリンゲライン(美弥 るりかさん)
 この役、中川晃教さんのイメージが強かったです。
みやちゃんオットーもよかった!
弱そうv細いvv

男爵とのラインダンスは何度みてもかわいかった!楽しい!踊り慣れてないひとがムキになってやっちゃってる感とかうまい。あとで筋肉痛になりそうなオットー。

しゃべり方だけじゃなく、視線のやりかたとか姿勢とか、ものすごく気弱なひとっぽかったですね。
フラムシェンちゃん、オットーのこと幸せにしてやって……


■プライジング社長(華形 ひかるさん)
 会社傾きまくりな社長。
個人的にはピンチすぎてかわいそうになってくるわ。

そんなもやもやをセクハラではらそうとするのはいかんけど。

 最近専科さんがバタバタ卒業していくのでこわい。
みつるさん かちゃさん、まだまだいてください……
待遇良くないんですかね……

色男なみつるさんがいやらしい社長を演じるというのが楽しくて、プライジングさん出てくるシーン好き。こんなオッサンに簡単に殺されちゃう男爵の弱さ……(たまきちは弱そうじゃないけど)


■運転手(宇月 颯さん)
 このあたりから名前なくなってきますからね
名前ないのかーこの群衆感がグランドホテルですね。

 ちょい悪アンダーグラウンド運転手、ただただかっこよかった!
タバコ持つしぐさがひたすらセクシー!


■フリーダ・フラム[フラムシェン]
(早乙女 わかばさん)
(海乃 美月さん)

 フラムシェンちゃん役替わり両方みられました!
どちらもかわいい!髪型とか衣装とかレトロ可愛いー!

 個人的にはわかばちゃんのほうが、より明るいおばかちゃんでフラムシェンぽいかも。
美月ちゃんは比べると少しおとなしく、思慮深そうに見えます。

 スカート、あとちょっとだけ短くして!て見てたひとの多く思ったと思うv
スカートの中にはいてるやつなんていうのか知りませんが、見せパン的なものなのでしょうか。魔女宅のキキのはいてるみたいなやつ。

 生理が正確なことをいう「ミス・スイス時計」だっけ?
面白いネーミングで印象的。

 ミュージカル『タイタニック』もそんなだけど、この時代いろいろ抱えたものがアメリカ行けばなんとかなる。ってヨーロッパのひとが思ってた感じなのかな?
新天地でリセット。夢があるなあ。実際どうかは別として。


■エリック
(朝美 絢さん)
(暁 千星さん)
 あーさちゃんでみました。
ひとり芝居というか、電話でいろんな感情を見せてくれるので面白い。
このひとのシーンほんとブラック企業だわ。
妻の出産のときくらい休ませてあげて。
裕福ではないだろうにモルヒネのお金ただ盗られてるのもかわいそう。

 セリフ聞き取りやすかったです。


■ラファエラ・オッタニオ
(暁 千星さん)
(朝美 絢さん)
  私はありちゃん版しか見られず。
あーさ版も見たかった……!!
スカステ放送はどっちなんだろう。両方やってください!

 ボブのヅラをつけたありちゃん。感は最後まで抜けませんでしたが笑。
セリフがたまにカタコト感あるのが気になった。


■レヴューロマン
『カルーセル輪舞曲(ロンド)』は、お馬さんになるジェンヌというオープニングに度肝を抜かれます。
みんなガチのたてがみなのに、ひとりだけ かわいいたてがみでちゃぴちゃんずるいvv


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2018年03月14日

宝塚雪組感想『ひかりふる路(みち) ~革命家、マクシミリアン・ロベスピエール~』その1

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『ひかりふる路(みち) ~革命家、マクシミリアン・ロベスピエール~』
雪組 東京宝塚劇場


 新生雪組! しかもワイルドホーンさん作曲! で舞台はテッパンのフランス革命! という盤石の体制でのスタートですね。おめでたいです。

 宝塚界では非常に有名なロベスピエールさんだけど、一般知名度ってどのくらいなんでしょう……
フランス革命に尽力した若き革命家として、革命後は恐怖政治をしいて多くをギロチンで処刑した指導者として。貴族、国王、王妃、政敵……最後は自身もギロチンにかけられます。

 宝塚では革命家時代が『1789』、『ベルサイユのばら』、革命後が『スカーレット・ピンパーネル』、『ルパン三世』にもちょっといましたね。
と大劇場公演だけでも数々登場しています。

 しかし主役として!というのは日本初どころかもしかして世界初?なのかな?
闇墜ち感ハンパないこの人物をダークヒーローに定評のあるだいもんが!!
ポスターも良かったしほんと期待でした(先行画像も素敵)。

 作品全体非常によかったと思うし大好きなんですが、わかりにくいところもあったと思います。
 最初に思ったのは、友人関係だと役名をファーストネームで呼ぶこと。普通にリアルなんだけど、このひとカミーユ・デムーランていうんだ、ってわかってないと初見わかりにくいんじゃないかと。

 ロベスピエールの弟妹という設定もそこまでいかしてないので必要だった?て感じだし(個人的には萌えるけども)。

 イギリスとの内通のあたりとか、ジャコバンとジロンドってなにかとか、夏美さんのタレーランの存在とかあまり説明なかったよね。
宝塚ファンはタレーランもデムーランもよく知ってるけどね!!
帝劇の『1789』もチケット取れたので楽しみです!!←まさおさんアントワネット回!

■ギロチンモチーフの衣装っていうのはすごく斬新でかっこよかったと思います!!
時代考証ももちろん大事だけど、面白い試みですよね。
(処刑される人にだけギロチンラインが入るのかな?リュシルは途中から入りましたね)
あーさちゃんのギロチンラインのところ、ほつれ出してて気になってました。衣装さん直してー。

■生田先生らしさ
マリーの「そして…残酷な朝がきた」
とかシェイクスピアぽさがあって、生田先生らしいと勝手に思ってます。

■ マクシミリアン・ロベスピエール (望海 風斗さん)
 もういつでもどこでもトップになれる実力で、二番手をしっかり務めあげての就任。とてもめでたいです!なんの不安もないトップさんだ。
学年的に何作やってくれるか……というのはありますが。だからこそしっかり次も主演作でみたかったですねえ……
『凱旋門』て……(ポスターもどうした……ちゃちゃっと画像組み合わせて作っちゃったの?てレベルですけど……)

次の次は海外ミュージカルで!!
とか思ってたら待望の『ファントム』きたーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!

 よしゃ!

 としか言いようがない……
しかしキャリエールが咲ちゃん?でシャンドン伯爵が翔くんあーさ役替わりとか??(翔くんカルロッタってわけにも……)
ひとこちゃんは劇団員のオベロン? ファントムはあんまり役がないんだよね。『凱旋門』すっとばして『ファントム』が気になるー!


 ともあれ今回のロベスピエール!ですが。
真摯でシャイな革命に燃える青年。下宿先の娘に思いを寄せられていても気づかないという前しか見えない主人公気質。
このころのロベのしゃべりかたや表情に、好青年感があふれていてたまりません。(『モンテ・クリスト伯』とかと一緒で、序盤の明るさがせつなく見えてくる)

 権力があがるにつれて仲間が去っていって、政治もうまくいかず敵ばかりが増えていく。
30過ぎくらいの青年にこれはきつい……。

 わかっていても、ギロチンにかけられるラストシーンは悲しすぎる。
生きていくマリーとの対比が綺麗でした。


 熱演。
毎公演心配になるほどの熱演。

 宝塚は約2か月、週休1日で公演をし続けるので、オーバーワークがただでさえ心配なのに、ロベスピエールの太く短い人生の熱量に毎回圧倒されました。
今日このあとも公演あるんだよー?!てびっくりしてしまう。

 そしてクオリティ。
今回の雪公演は、自信をもって宝塚をパンピのかたに紹介できました。
これって意外と残念なことに少なくて、「作品が良くて(ショー含む)」「メインキャストのレベルが高い」の両立、ほんとに少ないのですよね。
加えて曲も良かったので、このブルーレイ布教用にいい!と思います。

 だいもんはもちろん本人の中で好不調はあるんでしょうが、毎回チケット代以上のものを見せてくれたと思います。
すごいプロだなあ……!


 マクシミリアンて名前もかっこいいし。
衣装は最後の方の黒と最初に着てたやつが好き。

 お芝居が始まって、ひと場面終わってからの登場。
そして主題歌。
初見はここでもう満足してしまった。いいもの見たー!てなりました。

 登場シーンと酒場でわっしょいとダーク粛清開始のシーンがものすごいツボ!!て思ってたけど、回を重ねるごとにマリーとのかけあいもダントンとお食事も裁判所もどんどんみどころになってきて、結果みんなツボでした。


■ マリー=アンヌ (真彩 希帆さん)
 史実の人物が多い作品で、ヒロインオリジナルキャラクター。
主人公を親の仇め! って狙う女子ってまあよくある設定ではありますけど。

 彼女の歌声、すごく好きです。
きれいな声というのは才能です。軽々とした高音、低音もきれいに決まる。
だいもん、いい相手役を得られたなあ……! 嬉しいです。

 序盤、民衆がわーわーしてる場面からそっと現れて彼女の場面が始まるんだけど、ひと声で場の空気が変わるんですよね。
ちゅうもーく!て言われなくても注目してしまう。
マリーは孤立気味なキャラクターなので群衆シーンにはあまりいないんだよね。
ソロが多くて聞き入ってしまいます。

 ルックスはもうちょっとがんばってほしい。
メイクとかたち振る舞いとか(たまに姿勢悪く見えました)。
目が大きすぎるように見えるので、月組のわかばちゃんみやちゃんみたいにマイナスするとこはしてバランスよく仕上げてほしいな。

 まあこれからの娘役さんですからね!
期待してます!

 声が、東京ではだいぶいためてしまったようで、心配でしたが。
とはいえ歌っていて音が出ないとかはなく、慎重に調整しつつ歌っている感じでした。現状できる最大限というイメージ、きちんと千秋楽まで演じきってすごい。

マリーは出番も多く非常に難しい役だと思いますが(可憐で清楚でただ主人公に思いを寄せる娘役王道の役ではない)
殺意と愛情のまじったマリーを熱演してたと思います。
お芝居の負担が大きいためか、ショーは出番減らしていたように見えました。

 ロベスピエールに心酔する民衆の間から登場し、冷めた瞳。
自分がどうして彼に殺意を抱くのか説明する歌で、幸せだった彼女の回想が美しい場面なんですよね。
貴族、いいなあ……惚れ惚れ。お母さんの舞咲りんちゃんも優雅。

 そりゃ、領民といい関係を築いていた貴族も多くいたんでしょうね。働いている庶民の前できれいな服きてまったり楽しんでいる貴族たちは淡い色合いでとても輝いて見えます。
革命で暴徒と化した市民に家族と恋人を殺されてしまいます。
このとき、死んだみんなまばたきもしないで倒れてるのでつい見ちゃう。

 だいもんロベと出会いふたりのかけあいの歌はなんかワクワクします。
「ひどい人。礼儀知らず。問い詰めるなんて」
が好き!
これ、後ろ暗いから余計にキレちゃうマリーらしいなあ。

 幸せな貴族家庭だったので(貴族ってそこまで生活共にしてなさそう)、父親に不満のないマリーもかわいい。

 二度目に手に入れた家族と幸せを、与えてくれたロベスピエール本人に奪われてしまった。

 貴族の娘なの?てくらいの身のこなしでロベスピエールを狙います。
そもそも市民の襲撃を足で逃げ延びている。
終盤ロベスピエールを襲うときは二刀流。
バイタリティーあふれる娘。

 初めて出会ったとき、ロベスピエールが「誰だ……?どこかで出会ったような……」っていうのは特に伏線とかではなかったのね(あまりにマリーが強くロベスピエールを見つめるからってだけか)。
身分が違うから出会わないよなあ。


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2018年03月13日

映画『沈黙 -サイレンス-』感想

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■原作小説すごく良かったと記憶しているんだけど、読んだのはだいぶ昔。
あの有名すぎるラストの場面は記憶に残っていたけれど、細部は忘れ切っています。

 遠藤周作さんは私なにより『海と毒薬』が好き!!これも映画化されないかなあ。
そういえば『沈黙』は一度映画化されてるんですよね。スコセッシ監督がついに!!みたいな扱いだから、初の映画化なのかと思ってた……。

 それにしても『沈黙』のハリウッド映画化、宝塚歌劇団で天草四郎が今年上演予定。『MESSIAH(メサイア)異聞・天草四郎』ね。
これで長崎の隠れキリシタン遺産の世界遺産登録きたらすごいな!と思います。勢いきてるよね!と勝手に感じています( `ー´)ノ


■あらすじ
 ポルトガル人でイエズス会の司祭である主人公ロドリゴ。
彼の師フェレイラは布教のため遠い日本へ渡っていた。日本ではキリスト教信者たちは厳しい状況下にあるらしい。
その師が棄教(キリスト教信者でなくなること)し、今は日本人として暮らしていると情報を得たロドリゴ。

布教者として、そして師が気になったロドリゴは、もう一人の仲間ガルベとともに日本へ降り立つが、そこは弾圧吹き荒れる『地獄』だった。


 以下、ネタばれありです。




 時代は江戸時代初期。

 冒頭、ロドリゴが探すフェレイラ神父本人が出てきます。
キリシタンが熱湯(温泉の源泉かな?あれ雲仙?)をかけられ続ける拷問を受けているのを見ています。
しょっぱなから辛い。

 日本を舞台にした外国映画らしく、出てくる日本人、英語ベラベラでございます。
これ、萎えるって人多いと思う。
ちょ、貧農民すらしゃべるのwwwてちょっとなります。

キリスト信者だから単語とかは知ってると思うけど、文法きっちりしゃべるのは違う気が。
仮定法、現在完了とかも駆使してしゃべってましたよね。

もっとカタコトでいいと思うさすがに。懺悔まで英語で行うレベルは無理があるわ。

イメージ的には、『ダンス・ウィズ・ウルブス』並に言葉通じないのでは。
本当は英語じゃなくてポルトガル語なんだと思うけど、ハリウッドだから基本英語でしゃべっています。


■セバスチャン・ロドリゴ神父( アンドリュー・ガーフィールド)
 アメイジング・スパイダーマンの人なんだけど、もはや別人。

 主人公。
 彼の目線が終盤まで続きます。
彼の目からみた日本、日本人、日本人のキリスト教(本来のキリスト教とは違う、と言われてましたね)。

 途中で日本側からの指摘があるように、彼は無知蒙昧な者たちに
「教え、授け、導く」 
ためにきているので、日本に迎合はしないんです。
だから言葉も覚えようとしない。

 日本人たちが怯え隠れていて、危ないから小屋からでないでといわれたのに日光浴しちゃう序盤の軽く考えていた司祭ふたりが、現実を知り追いつめられていく様がすごい。

 途中ガルペと離ればなれになるけれど、どっちもやばい分岐点だった。救いのない分岐点。


■キチジロー (窪塚洋介)
 この映画のためにやせたのかな?てくらいガリガリでしたね。
リアル食べられてない感……

 キチジロー、腹立つけれど人間らしい。
家族が踏み絵を拒んでも、自分だけ踏んで逃げてしまったり、銀300のために司祭を売ったり(とてもわかりやすくユダイメージでした)、簡単に裏切る彼を信徒というのは難しいのでは?でも信者なんですよね。

 殉教はできないけれど、彼は信者なんです。
平和な時代ならちゃんとした信者でいられた。なんでこの時代の子だったのか……本当にそうだなあと。

 キチジローの、悪いことしちゃったので懺悔させてくださいバードレ(司祭)!で、懺悔したら神に許されてすべてチャラになるのかなあ、と最初イライラしてしまう。
裏切ったロドリゴに対してあなたを裏切ったことを謝りたいから懺悔させて、ってなんか変……
ほかに懺悔を聞いてくれる司祭はもういないけれども。
ロドリゴにじゃなく、神様に懺悔してるのだからいいのかな?

 ラストで彼は隠し持っていた信者の証をみつけられて連行されてしまう。そしてたぶん処刑されたと思われます。


■踏み絵
 社会の教科書にもでてきた踏み絵。
映画中も何度もでてきます。

精巧な作りではない、平べったいタブレットくらいの大きさ。
でもこれを踏めずに殺された人の多さにやりきれないです。
神様は踏んだからといって怒らないよ……て思うけど。思ってしまうけども。

なんとか踏んだ人々に、じゃあ次はロザリオに唾吐け、て追い打ちされて、それはできない信徒たちも悲しい。

ロドリゴを守ろうとしたモキチたちははりつけにされ、海に放置という刑を受ける。
満潮になると顔まで水がきて、じょじょに弱らされていく処刑法。
体力のない長老はすぐに亡くなってしまうが、若いモキチは数日生き延びて、はりつけにされながら聖歌を歌っているシーンが一番印象に残りました。

あと、踏み絵を踏ませるシーンで、
「ちゃんと踏まなくていい」
「はじっこにかするくらいでいい」
「心ではなにを思っていてもかまわない」
「形だけだ」
「わしもこんなことしたくない。どうでもいい」
みたいに言うのも印象的。

 弾圧も別に積極的にやりたくないけど、仕事だからもうさっさと踏んでくれれば助かるのに。放免なのに。
これがすごくフラットなひとの気持ちだったのかな。


■司祭のみた幻のイエス・キリストの顔
『ハンター×ハンター』のイルミ兄……
急に出てらっしゃるとびっくりします。

暗闇、霧のなか川を渡るシーンと、川面にうつったロドリゴの顔が急にキリストの顔になるシーンはちょっとしたホラー。

あの、ただ見つめてくる感情の読めない瞳と、こんなにひどい状況なのに、呼びかけに答えてくれない彼の「沈黙」に主人公は追いつめられていきます。

 でも最後に主人公に聞こえた「彼」の「声」はとても穏やかで優しい真摯なものでした。

 助けるのではなく、常に一緒にいてともに苦しんでいる。
ともにこの状況にいる。

踏みなさい。
私を踏みなさい。

 すごいいいシーンだけど、踏みなさい、が「ステップ」なのが、そうかステップとしか言いようがないのか……でもちょっと楽しい響きだな……と思ってしまった。

意外としっかりど真ん中を踏むロドリゴ。
こういうの、一回で済むと思ったら、生涯において何度もやらされ監視されているとは知らなかった。


■原作で衝撃だった「いびき」シーン

 ここ、映画ではさらっと流されたような……

 耐えてきた彼がついについに棄教するすごく大事なシーンだと思うんだけど……
原作だとここものすごかった気がするんだよね。文字と映像の違いかなあ。
初めて読んだ時の衝撃が一番大きかったというだけかも。

 ロドリゴは自身にひどい拷問を受けていないので、被害者ではあるんだけど目撃者のイメージのほうが強いと思いました。
役人たちはロドリゴを殉死させ英雄にしたいわけではなく、改宗させたいんですよね。
なのでわざとロドリゴ以外にひどい仕打ちをして追い詰めていたので、それで合ってるんだろうけど。

 まったく記憶違いかもしれない。
というわけでちゃんと原作読もうと思いました。


■井上筑後守  (イッセー尾形)
 ロドリゴ目線だと悪の親玉。
けれど、日本側にもキリスト教を禁止したい、鎖国したい理由はあるんですよね。
植民地の問題とか。基本支配したろ!て国から来てるわけですから。

仏教や儒教は日本になじむのに、どうしてキリスト教はこんなに反発があったんでしょう。やっぱり、絶対神という存在は支配する側には受け入れてはいけないものに感じるのかな。

神の下に平等って言われたら、士農工商とか、年貢納める意味とは?てなるものね。
てことはイスラム教も親和しないのか。

 彼は独自の表現で日本に外の文化も人もいらない、とロドリゴに伝えます。
外国を石女にたとえて、石女と結婚する男はいないと。
石女、なんて表現ひさしぶりに聞いたわ。

 柔和で冷静でやる気なさげなのにどこか不気味で怖い。
声がすごくガラガラしてて、独特の存在感がよかったです。
出てくるたびイノウエサマー!てなる。
最初、ロドリゴは目の前の老人が恐れられる「悪の権化」井上とは気づかないんです。このシーン、イノウエサマのギャップがわかりやすくて好き。

■通訳 (浅野忠信)
 清潔でひょうひょうとして、どんどん汚くなってくロドリゴと対照的。
通訳としてそばにいたけれど、何人もの司祭を転ばせてきた男らしい。

 あのアルカイックスマイルな感じ、外国のかたはどう受け止めるんだろう。


■ジュアン (加瀬亮)
気配消しすぎ! 全然気づかなかった!逆にすごいわ。
小松菜奈ちゃんは小汚いかっこうしててもとてもかわいらしかった……。
彼ら彼女らに「パードレ」は輝いて見えていたんだろうね。

作品にはさまざまな処刑が出てきますが、加瀬亮さんの一撃で首を落とされるのが一番苦しみが少ないと思います。さすが日本刀。


■その後のフェレイラとロドリゴ
 別の人物(あなた誰よ)が彼らの人生を語ります。

 日本名を与えられ日本人の妻を(強制的に)もらい、キリスト教を批判する本を書かされたり、日本の隠れキリシタンを見つけたり。
貿易で日本に持ち込まれる荷物の検査とかやってたんだね。
カンニングをみつける先生なみでした。

隠さなければいけないものなので、ほんといろんな方法でキリスト教のモチーフをひそませてたんですね。

個人的には、作中ロドリゴも言ってるけれどそんなに物がなくてはいけないのかと思いますけど。
信仰って心だけでは完結しないのかしら。
マリア像とか死せるキリストの絵とかもってないといけないのかなあ。
ものすごく危険なら物はいっさい持たず心に信仰を持ち続けたらいいのに。
でもそれこそ捨てられるものでもないだろうし、大事だし隠さなきゃ!てなるのかな。

 フェレイラが死に、ロドリゴも老いて亡くなります。
彼の妻の表情やしぐさが気になります……あれどんな感情なの。あまりうまくいってなかったというか、無理矢理めあわされてるし、偏見とか妻もいろいろあるんだろうけれど。
最後ロザリオを棺に入れてくれたのは妻だと思うんですが……

 日本式の、丸い木の棺に窮屈そうにおさまったロドリゴの組んだ手の中にあるのがモキチのロザリオ。
彼は決して生涯表には出さずとも、心は信徒のままであったというラストでした。
日本式に火葬にされ、墓に眠る棄教した宣教師の人生。

今、心でなにを信じて思っていてもいいという時代に心から感謝する映画です。


■この作品、おもしろいのが音楽がほとんどないんです。
効果音とか台詞はあるんだけど、基本自然の音でできている。

波の音や足音、蝉の声や虫の嫌な羽音が印象的。

深刻な空気の作品にぴったりでしたね。

時間は2時間半以上と非常に長いですが、集中を切らさずにみられる作品だと思います。


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